ーー「こう言ったら偏見かもしれないけど。そういうお仕事って、浮き沈みが激しいでしょう?」
え、と当時の僕は、予想外の反応に眉をひそめた。
「そうねぇ。確かにあなたの容姿は優れているし。それなりの覚悟とプライドを持ってやっていると思うから、一概にその夢が悪いとは言えないわ。
だけどそういう特異な職業って、結婚には縁遠いんじゃないかしら?」
「縁、遠い?」
座っているにも拘わらず、クラクラと目眩がした。
「そりゃあね? スキャンダルとか熱愛報道って言葉があるぐらいだもの。
芸能界で活躍してる俳優さんや歌手の方が、結婚をしちゃいけないって決まりは無いわ。
だけど既婚者がプロとして活動を始めるっていうのはどうなのかしら? それは認められる事なの??」
僕は無言で俯いた。
事務所の社長に認められるのか、そう問われているのだと気付くが、何も言えなかった。
「幸子にはね? あの子には、堅実な人生を歩んで欲しいの。それなりのお給料を貰っている方と結婚して。出来たら共働きじゃなくて、ちゃんと家庭に収まって子供を育てて。
そういう普通の幸せを望んでいるの」
僕は僕自身の全てを否定されていると、この時になってようやく理解した。



