ーー「親に電話したいんだけど、国際電話ってどうすればいいかな?」
今はロンドンの現地時間にして真夜中だ。
夕方幸子にこう言われ、僕は国際電話を掛ける事にした。日本との時差を考えると丁度向こうは午前十時を過ぎたところだ。
互いに結婚しようと決めてから、僕たちが次にすべき事は幸子の親への挨拶だ。帰国したら折を見て、挨拶に伺うつもりでいる。その挨拶も二度目になるので、ーーいや、正しくは三度目だがーー幸子は前もって電話で知らせておいた方が良いと言っていた。
呼び出し音が鳴るのを確認し、幸子に受話器を渡す。
「あ。お母さん? あたし」
幸子は僕に背中を向け、うんうん、と相槌をうっている。
「ごめんね、心配掛けて。……え、今? ううん、ひとりじゃないよ」
ベッドに座りながら幸子の後ろ姿を見つめる。丈の短い小花柄のワンピースは、今日ロンドンで買った寝間着だ。
「そっちへは二十三日、午前中の便で帰るから。……あ、うん。羽田空港」
僕はそろりと立ち上がり、華奢な背を包み込んだ。
「……あと、それとね? 今ちょっと紹介したい人がいて。あ、うん。そう。彼氏だよ?」
あらかじめ、幸子には後で代わって貰えるよう、頼んでおいた。



