しかし、幸子にした行き過ぎた行為を思うと、きっと仕返しには念入りで、泣き寝入りをするタイプじゃない。
慰謝料として金を要求した切迫感。金銭的に追い詰められているという、カイの読みは当たっていた。先ずは三百万と言ったあの男は、次に幾らを要求するつもりだったんだ?
「……あ。ごめんなさい。檜にこんな話、やっぱり気ぃ悪かったよね?」
申し訳無さそうに取り繕う彼女を見て、僕は焦った。別に幸子に対して怒っている訳じゃ無いのに、かなりのしかめっ面をしていたはずだ。
幸子には隠し事をするなと言っておきながら、僕はあの男に会った事、つまり脅迫された事を黙っていた。今後言うつもりも無かった。
幸子の性格を考えたら、僕に罪悪感を抱くのは容易に想像出来たし、巻き込んでごめん、と今さら他人行儀にもされたくないからだ。
「いや、全然そんな事ないよ?」
「本当?」
「うん。これからは幸子の心配事とか悩みとか。俺はそういうの、二人で考えていくべきだと思うから。むしろ言ってくれた方がいいし、その方が嬉しい」
「……檜」
幸子は不安に揺れた瞳を、安堵に輝かせた。



