「……酷いな」
ーーというか、やる事に度が過ぎている。
僕は海浜公園で会った、あのカサイという男を思い出していた。
「ううん。金銭面で言ったら、あたしよりしんどいのは……あの人の方だから」
「だけど。実家に手紙が届いたんなら、荷物ぐらい送ってくれても良さそうなのに」
「仕方ないよ」
「え?」
「先にあの人の信頼を裏切って、滅茶苦茶にしたのはあたしの方だから」
そこで僕は口を噤んだ。
確かに幸子はカサイという奴に黙って僕と浮気をした。結婚間近の時期に婚約者を裏切る行為は、許されない事だ。
でもその制裁が、暴力を振るわれ、部屋を追い出され、荷物を処分され無ければいけない程、酷い事なのか? そう考えると、どうにも合点がいかない。
「今、檜にこんな事言うのは、フェアじゃない気がするけど。あれからあの人がどうしてるのか……実は少し心配なの」
「え……」
「式のキャンセル料だけで無く、新居の問題も有るから。どこかで借金する事になるんじゃ無いかって」
幸子はそう言ったきり俯き、口を閉ざした。
僕は二度ほど会ったカサイの外見を思い出していた。パッと見は真面目で温厚な印象を受けた。



