ボーダーライン。Neo【下】


 僕は幸子と共に、あと五日の休暇をロンドンで過ごす事にした。

 二人で朝食を済ませ、早速観光に出掛ける。

 幸子の要望で先ずはセントポール大聖堂に向かった。ロンドンの街並みを恋人繋ぎで歩いていると、昨日まで見ていた景色がきらきらと輝いて見えるから不思議だ。

 僕は彼女と繋いだ右手に、キュッと力を入れ、もう大丈夫と自分自信に言い聞かせた。

 ーーこれでもう幸子はどこにも行かない。俺だけの彼女だ。

 ふとしたらにやけそうになる口元を引き締め、彼女に目を向ける。

「……そう言えば。荷物全部無くなったって言ってたけど。本当に全部?」

 家を出る前、朝食を食べている時の事だ。

 海外旅行であるにも拘らず、小さなスーツケースひとつで来た理由から始まり、元カレに部屋を追い出されてからの経緯(いきさつ)を、幸子は順を追って話してくれた。

 流石に暴力を振るわれた事については話を濁し、僕はそんな彼女に“らしさ”を感じた。

「ん。何もかも。服はその夜着てた一着だけだし、財布も携帯も無いから、色々と手続きも大変だったし。生活用品を買い揃えるのに大分貯金も下ろしちゃった」

 仕事先の弁当屋を辞めた事も話してくれ、「今超貧乏だよ」と幸子は笑って肩をすくめた。