ボーダーライン。Neo【下】


 ◇ ♂

 呼吸をする度に、ふわりと良い匂いに包まれる。幸せな空気に微睡み、僕は起きるのを先延ばしにしていた。

 ふと瞼の裏に視線を感じ、目を開ける。

 良い目覚めだなと思った。

「……はよ」

「おはよう」

 愛する(ひと)が隣りに寝そべっている感覚を、長い間忘れていた。

 寝起きの幸子は妙に色っぽく、僕は彼女を抱き寄せた。



「あら、思ったより早いのね?」

 階下へ降り、リビングにいる母さんと目が合った。母さんのおはようの挨拶に苦笑を漏らす。

「幸子ちゃんは?」

 僕の後ろに幸子が居ないと分かり、母さんが二階を見上げる。

「あ、うん。上でシャワー浴びてから来るよ。朝飯、これ?」

 時間はもう九時に差し掛かろうとしていたので、お腹が空いていた。僕はキッチンに置かれた二人分の食事を見て訊いたのだが。

「……檜、ちょっと」

 母さんが小声で僕を手招きする。

「なに?」

「あんた、もうちょっと幸子ちゃんの体もいたわってあげなさいよ?」

「……は?」

「昨日。フライトで疲れてるのにお酒もガバガバ飲ませて、あんなに激しくして」

 咎めるような口調と、その内容に気付かされ、僕の頬はカッと熱くなる。