ボーダーライン。Neo【下】


 ーー気持ち良かった。凄く。

 声を我慢するとか、もうそんなの論外で叫びまくってた。

「もう一回シようと思ってたけど。今日はもうやめとくな?」

「……え?」

「二人でゆっくり眠って。また明日シよう?」

「……ん」

 檜の温もりが嬉しい。彼のこの肌の匂いが好き。

 あたしは裸のまま、ピタリと肌を擦り寄せた。

 きっと何回抱かれても足りない。時間と共にまた欲しくなる。

 昔から、あたしと檜はそんな感じだった。する度に彼への愛情が膨らみ、制御できない程にのめり込む。

 けど、もうそれで良い。

 恋人との性交(セックス)にあんな虚しさを味わうぐらいなら、ずっと檜の側にいたい。

 嫉妬や独占欲、疑心暗鬼のしがらみと向き合い、この先も檜だけを愛して、生きていきたい。

 ーーもっと強くなろう。

 現在(いま)の檜はあの頃とは比べ物にならない。ただ目立つ、ただモテる高校生じゃない。

 芸能界という世界で、歌だけでなくルックスやその姿態をも売り物としている。

 いつしか仕事中のお弁当屋さんで見た、常連客のOLさんは、プロモーションビデオにすら夢中だった。あの恍惚とした瞳を思い出すと、独り占めなど最早遠い夢かもしれない。

 でも、それで良いんだ。

 FAVORITEのHinokiはファンのものでも、秋月 檜はあたしの婚約者。それが事実だから。

 この先、結婚に対して反対の声があがるかもしれない。でもあたしには、それを諦める覚悟も出来ている。

 結婚という紙一枚の契約だけが、全てじゃないから。

 ーーだから。強くならなきゃ。

 愛する人の肌の温もりを感じ、あたしはそっと瞼を閉じた。

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