ーー気持ち良かった。凄く。
声を我慢するとか、もうそんなの論外で叫びまくってた。
「もう一回シようと思ってたけど。今日はもうやめとくな?」
「……え?」
「二人でゆっくり眠って。また明日シよう?」
「……ん」
檜の温もりが嬉しい。彼のこの肌の匂いが好き。
あたしは裸のまま、ピタリと肌を擦り寄せた。
きっと何回抱かれても足りない。時間と共にまた欲しくなる。
昔から、あたしと檜はそんな感じだった。する度に彼への愛情が膨らみ、制御できない程にのめり込む。
けど、もうそれで良い。
恋人との性交にあんな虚しさを味わうぐらいなら、ずっと檜の側にいたい。
嫉妬や独占欲、疑心暗鬼のしがらみと向き合い、この先も檜だけを愛して、生きていきたい。
ーーもっと強くなろう。
現在の檜はあの頃とは比べ物にならない。ただ目立つ、ただモテる高校生じゃない。
芸能界という世界で、歌だけでなくルックスやその姿態をも売り物としている。
いつしか仕事中のお弁当屋さんで見た、常連客のOLさんは、プロモーションビデオにすら夢中だった。あの恍惚とした瞳を思い出すと、独り占めなど最早遠い夢かもしれない。
でも、それで良いんだ。
FAVORITEのHinokiはファンのものでも、秋月 檜はあたしの婚約者。それが事実だから。
この先、結婚に対して反対の声があがるかもしれない。でもあたしには、それを諦める覚悟も出来ている。
結婚という紙一枚の契約だけが、全てじゃないから。
ーーだから。強くならなきゃ。
愛する人の肌の温もりを感じ、あたしはそっと瞼を閉じた。
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