ボーダーライン。Neo【下】


「あなたが大切にしてた夢だって、分かってたけど。芸能界に入るなんて嫌だった。只でさえ檜はモテるのに、それが不特定多数になるなんて、耐えられなかった」

「……そっか」

 檜は沈んだ声で足元を見ていた。

 その姿を見て、ズキンと心臓が痛くなる。

 嘘をついていた事に、今更ながら罪悪感が募った。

「分かった」

 檜は一つ、大きく息をつくと空を見上げた。

「幸子の気持ちはよく分かった。

 確かに俺は、色々黙ってた。幸子の元カレみたいに、あのお母さんに認められたい一心で、勝手に家にも行ったし。そこで反対されて、幸子との結婚か、アーティストになる夢か。二択を迫られた。

 でも。正直に言うと、あの時の俺にとっては、結婚なんてたかが紙切れ一枚の事で、どうしてもしなければいけないとは思えなかったんだ」

 ーーえ?

「だから話し合う事も避けてたし、今すぐの結婚が無理でもきっと何とかなるって思ってた」

 ーー嘘でしょう? だって、結婚しようってプロポーズもしてくれたのに。

「……ただ俺は、幸子と離れるのが嫌で、幸子の居ない人生なんて有り得なくて。幸子が結婚したいって思ってるんだったら、それを叶えてやりたいってそんな気持ちだった。ごめんな? こんな曖昧な気持ちで」

 泣きたい気持ちを抑え、あたしはふるふると首を振る。