ボーダーライン。Neo【下】


「あたしだけ、だよ? 当事者なのに、あたしだけが蚊帳の外だったんだよ?

 檜が実家に行ってた事も、嘘ついて早退してた事も、ボーカルを辞めようと思ってた事も、あたしだけが知らなくて、凄く嫌だった。そんな大事な事をずっと黙ってる檜が嫌だった。

 二人の将来の事なのに、上河さんが介入してる事も、嫌で仕方なかったの。

 もう、檜の事、信じられないって思った。

 あたしと、親の事について話すのは避けてた癖に、あの子には何でも相談しちゃうんだって思ったら。もう何もかもがどうでも良くなった。

 あなたとの将来を考えるのが嫌になった。檜の夢を応援するなんて、そんなの口先だけだったし、本当は普通に働いて欲しいって思ってた」

「……え」

「檜が芸能界に入ったら、あたしは教師だから、どうせ簡単に捨てられるんだろうなって思って、ずっとずっと辛かった。あたしなんか檜には相応しくない、そう考えたら、もう一緒にいる意味も考えられなくて、だから別れようって思ったの」

「……それ、本当?」

「それって?」

「俺が歌手を目指してるの、本当は嫌だったのか?」

 あたしは彼を見つめて、深く頷き、ごめんなさいと呟いた。