「あたしだけ、だよ? 当事者なのに、あたしだけが蚊帳の外だったんだよ?
檜が実家に行ってた事も、嘘ついて早退してた事も、ボーカルを辞めようと思ってた事も、あたしだけが知らなくて、凄く嫌だった。そんな大事な事をずっと黙ってる檜が嫌だった。
二人の将来の事なのに、上河さんが介入してる事も、嫌で仕方なかったの。
もう、檜の事、信じられないって思った。
あたしと、親の事について話すのは避けてた癖に、あの子には何でも相談しちゃうんだって思ったら。もう何もかもがどうでも良くなった。
あなたとの将来を考えるのが嫌になった。檜の夢を応援するなんて、そんなの口先だけだったし、本当は普通に働いて欲しいって思ってた」
「……え」
「檜が芸能界に入ったら、あたしは教師だから、どうせ簡単に捨てられるんだろうなって思って、ずっとずっと辛かった。あたしなんか檜には相応しくない、そう考えたら、もう一緒にいる意味も考えられなくて、だから別れようって思ったの」
「……それ、本当?」
「それって?」
「俺が歌手を目指してるの、本当は嫌だったのか?」
あたしは彼を見つめて、深く頷き、ごめんなさいと呟いた。



