「幸子」
デザートのプリンを並べた幸子に、僕は尋ねた。
「嫌がらせって、何?」
「えっ!」
あからさまに動揺する反応を見て、僕の知らないところで何かされていたのだと確信した。
「……うん。黙っててごめん」
そのまま幸子はまた右隣りに座った。
「え……。嫌がらせって、何かされたの?」
幸子が黙ったままで何も言わないので、代わりに弟さんが答えた。
「む、無言電話から始まって。カッターの刃が入った手紙とか、タロウに変なもの食わされたり、庭に生ゴミ捨てられたり、ガラス割られたり、色々と……」
ーー嘘だろ??
その様子を想像し、眉間を歪めた。
インターネットに投稿された書き込みには、S子に死んで欲しいといった内容が幾つも見られた。
幸い、幸子は外出をせずに家に引きこもっていると言っていたので、目立った怪我は無かったのかもしれない。
でも、もし仕事をして、外に出る事が有ったら、階段や駅のホームから突き落とされていてもおかしくない。そんな状況だ。
「し、心配掛けたく無かったの」
「……でも」
「だって檜は、記者会見の前だったし。あの時は言いたく無かったんだもん」
「……けど。それって俺のせいだよな?」
幸子は再び口を結んだ。
「誰が悪い訳でもないのよ。やった本人以外ならね?」
そう言って嘆息したのは、キッチンからお盆を持って現れた母親だった。



