ボーダーライン。Neo【下】


「幸子」

 デザートのプリンを並べた幸子に、僕は尋ねた。

「嫌がらせって、何?」

「えっ!」

 あからさまに動揺する反応を見て、僕の知らないところで何かされていたのだと確信した。

「……うん。黙っててごめん」

 そのまま幸子はまた右隣りに座った。

「え……。嫌がらせって、何かされたの?」

 幸子が黙ったままで何も言わないので、代わりに弟さんが答えた。

「む、無言電話から始まって。カッターの刃が入った手紙とか、タロウに変なもの食わされたり、庭に生ゴミ捨てられたり、ガラス割られたり、色々と……」

 ーー嘘だろ??

 その様子を想像し、眉間を歪めた。

 インターネットに投稿された書き込みには、S子に死んで欲しいといった内容が幾つも見られた。

 幸い、幸子は外出をせずに家に引きこもっていると言っていたので、目立った怪我は無かったのかもしれない。

 でも、もし仕事をして、外に出る事が有ったら、階段や駅のホームから突き落とされていてもおかしくない。そんな状況だ。

「し、心配掛けたく無かったの」

「……でも」

「だって檜は、記者会見の前だったし。あの時は言いたく無かったんだもん」

「……けど。それって俺のせいだよな?」

 幸子は再び口を結んだ。

「誰が悪い訳でもないのよ。やった本人以外ならね?」

 そう言って嘆息したのは、キッチンからお盆を持って現れた母親だった。