「檜……。もう覚えてないかもしれないけど、プロダクションに行くのを理由に、学校を早退してた時期……有ったよね?」
もう六年も昔の事なので、覚えてないだろう。そう思ったけれど、意外にも彼は目を見開き、バツの悪そうな顔をした。
「……ああ。うん」
その表情を見て、ちゃんと覚えているんだと思った。
「檜。一人であたしの親に会いに行ったんだよね? それで、交際を反対されて、檜の夢も否定されて。FAVORITEを辞めようとしてた。プロダクションに行くって嘘をついて早退して……。十日ぐらいそこも休んでた。そうだよね?」
後ろめたい表情から一転、彼は眉間をしかめ不信な瞳であたしを見ていた。
「それ、誰から聞いた?」
若干、怒ったような口調で訊かれるので不意に居たたまれなくなる。告げ口をするみたいで、嫌な気持ちになった。
「そんなの。誰でも良いでしょ?」
「上河、上河 茜じゃないのか?」
あたしはあの子の事を思い出し、噴水に目を向けた。ドロドロと汚い感情が沸き上がり、あの水で洗い流したいと思った。
正直なところ、思い出したくも無かった。
「あの時、幸子は上河と連絡を取ってた。俺のバンド活動のために、別れを強いられた、そうだろ?」
「それ。あの子から聞いたの?」
確かマネージャー補佐という肩書きだったから、今でも付き合いがあるのだろう。
「……いや。カイから聞いた」
「え? 何でカイくん?」



