言葉として語ってしまうと、何て簡単なんだろう。たった十ヶ月でも、檜といる時間は夢のようだった。
『去年の暮れ。
再会した彼女には、既に婚約している男性がいました。
彼女が結婚してしまうまでの数ヶ月間、僕は彼女の心を繋ぎ止めたくて何度か連絡を入れる事も有りましたし、二度ほど会って話もしました。
ですが、その時点で僕の気持ちが報われる事はありませんでした。
彼女の心は既に待ち受けた結婚に向いていましたし、幸せになるのだという意志はしっかりと伝わってきましたので』
車の中で、まだあたしの事が好きだと言った彼の瞳を思い出した。あたしはそれを、残酷な言葉で突き放した。
檜と一緒になる事は出来ないと、頑なに考えていた。
『“好きだからこそ、その相手の幸せを願う”……陳腐な言い回しかもしれませんが、自分の欲と葛藤しながら、僕が気付いたのはその事でした。
友人の結婚式という場で、僕は彼女と会い、幸せになるよう握手を交わしました。
そして別れを告げた。
彼女の人生とはもう二度と交わる事は無い、そう思って終わりにしました』
水城さんと内田くんの結婚式であり、あたしの誕生日でもある五月二十日。
あの日、あたしの中からポッカリと何かが抜け落ちるのを感じたんだ。



