ボーダーライン。Neo【下】


 左手で右手を覆いながら、蛇口から流れる細い流水で、傷口を気持ち程度に洗う事にした。ズキズキと響いて痛くてたまらない。

 ーー多分、あの手紙だ。

 思ってから、眉間を歪めた。

 もっと警戒して、注意深く開けるべきだった。

 後で悠大から聞いた話だと、破った封筒の中からカッターナイフの替え刃が覗いていたらしい。

 そこに両親が帰宅する。

「ただいま。悪いんだけどちょっと悠くんに頼みが」

「母さん! 見てよコレ、大変なんだよ!!」

 取り乱した弟が、母の言葉を遮った。




 親指の切り傷はそれ程酷く無く、自宅での処置で間に合った。

 お嫁さんを迎えに行く悠大と一緒に、父が犬のタロウを連れて車に乗り込む。

 母が言いかけた頼み事とは、急に具合の悪くなったタロウを獣医に連れて行く事だった。

 いつも元気なタロウだが、その日は朝から小屋に籠もりきりで、夕方の散歩中、急に道端で嘔吐し、ぐったりと座り込んだまま動かなくなったらしい。

 獣医に診せると、何か良くない物を口にしたのだろうと言われ、今夜からの入院を余儀無くされた。

 病名は急性胃炎だ。