「ふぅーん? 父さんは?」
「タロウの散歩」
実家で飼う番犬の事だ。
「そっか。そいじゃあ俺は由美を迎えに行って来るわ」
「はい、行ってらっしゃい」
土曜日でも仕事のあるお嫁さんを迎えに、悠大は毎週車を出していた。
そのまま台所を出て行く足音がしたが、少ししてまた戻って来る。
「あぁ、コレコレ! 姉ちゃんにコレ渡しに来たんだった!」
盛大なため息を吐き、悠大は白い封書をテーブルの上に置いた。封筒の四隅には、花のイラストが印刷され可愛らしい印象を受ける。
「何それ、誰から?」
洗った食器をすすいでいる所なので、振り返って見るものの封筒を手に取るのは後回しだ。
「さぁー? 分かんない。宛名書いてないから」
「そっか」
キュッと蛇口を止め、濡れた手をタオルで拭いた。
弟から受け取った手紙を持ち上げ、あたしはハテ、と首を傾げた。
ーーこれ。切手も貼ってない。って事は、直接うちのポストに投函したものだ。
表には横書きで、“桜庭幸子さま”と可愛らしい文字で書かれてあり、裏は今聞いた通り差出人名なしだ。
ーー教え子の誰かから、かな?
でもそうなら大体の確率で“桜庭幸子先生”と書いてあるだろうし、あたしが実家にいる事は今のところ水城さんや内田くんしか知らない。
だとしたら、昨日の電話の子、だろうか?



