再度ソファーに座り、頭を抱え込む母を見て、途端に胃が痛くなった。
ーーイタズラ電話だったら、どうしよう。家族に迷惑がかかる。
あたし、もしかして。とんでもない事しちゃったのかもしれない。
言い知れぬ不安とは裏腹に、その日、母が危惧していた無言電話は、一切鳴らなかった。
翌日の土曜日。あたしは手に菜箸を持ち、夕食の支度に勤しんでいた。
ちょうど揚げ物をしている最中で、小さな気泡が音をたててはじけ、途端に鍋一杯に広がっていく。ネタのひとつひとつを揚げては出してを繰り返していた。
海老や帆立、ちくわやナスを色好く揚げ、お皿をテーブルに置く。
先に作っておいた茶碗蒸しや煮物などは既に並べて置いてある。
「お! うまそー、今日天ぷら?」
アナゴの天ぷらを皿に盛った時だ。台所に顔を出した弟が、ヒョイと海老をつまみ食いした。
「ちょっと、悠大! 勝手に食べないでよ!」
油の火を止め、膨れっ面で注意すると、悠大は悪びれなく、ハーイとおどけてみせた。
「そういや、母さんは?」
「お母さんは三十分位前に自治会の集まりで出掛けて行った」
言いながら、シンクにためた洗い物を順に片付けていく。



