沈黙が続くようなら早く切れ、と手振りでも示していた。
「ま、間違いなら、切りますからね?」
そう言って直ぐ、人懐っこい若い女の子の声が聞こえた。
『あ、ごめんなさい。ちょっと電波が悪くて』
「……え、あ。いえ」
ーー無言、じゃなくて。声が届かなかっただけ?
「あの、どちら様、」
『あのっ、桜庭幸子先生ですよね? 今実家に住んでるんですか?』
「え?」
ーーもしかして、忘年会で会った二年二組の生徒?
「そうですけど。何さんか分からなくて、」
ーーー……プツッ.
「名前聞いても」
ーーーツー.ツー.
あたしの言葉を遮り、即座に電話は切られた。
ーーえ。なんなの??
子機を見つめたまま不快感を露わに、顔をしかめた。
「誰だったの? 今何か話してた?」
「……あ、いや。その」
歯切れの悪いあたしを、母は急かした。
「何て言ってたの?」
「わ、若い女の子の声で、桜庭幸子先生ですよね? って言われて。去年会った教え子かもしれないと思って、そうですけどって言ったら切れちゃって……」
見る見るうちに母の顔色が悪くなった。
そう、と軽く相槌を打ち、単なる思い過ごしだと良いけど、と独り言のように呟いている。



