ボーダーライン。Neo【下】


 僕は一旦口を噤み、ジッと社長の目を見つめた。

「記事に挙げられた“被害男性”にも……ケジメとして、きっちりとした謝罪がしたいんです」

「は?」

 社長は暫し押し黙り、「正気か?」と尋ねた。

「はい。気持ちばかりの金額ですが、もう相手に慰謝料も振り込んでおきました」

「はぁッ!? 慰謝料??」

 向かいに座る社長は泡を食って目を見開いていた。隣りに座る茜も絶句し、信じられないと呟いている。

「振り込んだって、檜。葛西さんにだよね!? いつ連絡取ったの??」

「いつって。会ったのは五月だからもう大分前になるけど。口座番号を渡されて、慰謝料を要求されてたから」

「だ、だからって何で払うのよ?? それがまた記事になったらっ」

「これだけの事実が既にバレてるんだ。払えと訴えられる前にちゃんと責任はとっておくべきだろ?」

 茜は呆れて言葉をなくしていた。

 当の社長は片手で顔を覆いながら俯き、無言を貫いている。

 ーーヤバい。また社長を怒らせた、かも?

 僕は心配になって、あの、と声を掛けるが。

「……ふ…っ。ハハ…っ! アハハハハハハっ…!」

 突如上がる高笑いに、ビクッと肩を震わせた。