それを分かっていて、曲を出す事を許してくれた。更には一週間の休みが欲しいという無茶なお願いも通してくれた。
ーーだとしたら、社長は。
「……わたし。伯父さんが何考えてるか分かんないよ」
「……え」
「だったら何で結婚には反対なの?」
「茜、それは」
「‘Flower’を出す事にOKしたんなら、檜の恋愛については反対してないんでしょう??」
「……それは」
「檜が結婚したら、そりゃあファンの子たちはがっかりすると思う。
けど、檜のアーティストとしての魅力はそこで終わらない。
今、週刊誌に取り沙汰されてる事も、きっと来年には風化して、また人気を取り戻してる」
じわりと心臓のあたりが熱を帯び、疼く気配がした。
僕は茜の気持ちに、少なからず胸を打たれていた。
「……ああ、そうだ。あいつはここで潰れるような奴じゃない、そんな事は俺も分かってる」
「だったら!」
「あのなぁ、茜。正直、俺だって戸惑ってんだよ」
「え?」
「ことのほか、期待をかけてきたアーティストがまさかこんな早くに結婚するなんて、そんな簡単に許せるはずが無いだろう?」
「……でも、」
「でもじゃない。大人の事情ってやつは、そんなにシンプルじゃ無いんだ」



