ごちゃ混ぜの感情に
 胸が締め付けられていると、
 石段を上ってきた人の傘が見えた。



 春輝くん?

 そう思ったけど、全然違う人。



 長靴からカッパ、傘まで
 全身黒ずくめの男の人。



 紫がかった髪は
 左右非対称でワイルドで。

 前髪と左の横髪は
 クルクルとねじってピンでとめてある。


 春輝くんと違って
 背が高くて、肩幅もある。



 帰ろう……

 そう思って傘を広げようとした時



「お前がウサギ?」



 不愛想な低い声が耳に届き
 私は慌てて傘を下ろした。



「え……と……」


「違うわけ?」


「違わない……ような……」



 鋭い瞳と威圧的な声に
 おどおどしてしまう私。



「春なら、来ねえからな」


「え?」


「それ、伝えに来ただけだから」


「あ……ありがとうございます」



 その人は
 私にぶつけるように言葉を吐き捨てると

 私に背を向け、帰っていった。