――帰ろう。



 自分に言い聞かせるように
 心の中でつぶやいた時

 走ってきた女の子に
 いきなり手首をつかまれた。



「来て」



 ちょっと…… 
 な……なに?



「時間がないから。お願い」



 私の耳が
 ウサギのように、ぴょこんと反応した。



 この声……


「春輝……くん?」



 私の声に反応して
 しーっと人差し指を、鼻の前に立てた春輝くん。



 真ん丸な黒目が隠れちゃうほど
 満面の笑みを浮かべた春輝くんに、
 私の心臓が、ドキドキしないはずがない。



 春輝くんに握られている手首だって、
 脈が飛び出しそうなほど
 激しく駆けている。