「僕、電話で言ったでしょ?
結界を張ってくれたら、
僕の部屋中に貼ってある悪魔払いのお札を
燃やしていいって。
僕が帰ってくる前に、
ポイして良かったのに」
「まだ春には
必要なんじゃねえの?」
「?」
「いなくなってねえじゃん。
春の心ん中に住み着いてる、悪魔」
「でも……結界を張る時の……
交換条件だったでしょ?」
「別に居心地悪くなんてねえし。
札まみれで不気味な、春の部屋」
マー君は、目が吊り上がったまま。
顔も仏頂面のまま。
だけど、
声はいつもより、少しだけ優しい。
「マー君。
よく除霊されないよね?」
「俺、悪魔じゃねえし。
ま、遠くもねえけど」
遠くもないって……
何、それ。 笑える。
「それに俺様クラスになると
こんな子供だましのお札
効き目なんてねえよ」
耳に届くマー君の声は。
不愛想で。呆れ声。
でも、
心の傷を和らげる
お薬みたいに優しくて。
僕を笑わそうとしているのが
すごくわかる。



