******
ある日の音楽の授業が始まる前の音楽室。
こういうときの休み時間は、望んでもいないのに私が主役になってしまう。
「ねぇ、澪。何か弾いて」
鍵盤に触れるのは好きだけど、目立つのはあまり好きじゃない。
私が苦笑いで渋ってみても、友人がせがんでくる。
「わかった、わかった。じゃあ、何にしよう」
「今日は誰でも知ってる曲が良いな。この前のは、よく分からなかったから」
「どストレートに言ってくれるね。グローヴァー・ワシントンjr. 80年代の大ヒット曲なのに! 名曲だよ!」
「ジャズ好きには、でしょ」
「むむ。そっか……誰でも知ってる曲、ねぇ……」
万人に受ける曲に悩む。
自分勝手な私は一定の人に届けば、それだけで御の字という考えで、いつも居るからなかなか浮かんでこない。
──万人じゃなくたっていい……。
その時にふと、手紙のことを思い出す。
『他でもない、アナタでなければならなかったからです』
「うわぁっ……!」
「わっ! 急にどうしたの、澪」
場所と時間を問わず、頭に浮かぶ手紙の中のあの文章。
今日だけで、既に7回以上は思い出している。
その度に、赤面して、焦ったりして。
私にとって、相当強い言葉だったのだ。
だって、あんなこと男の人から言われたことなんて、一度も無い。
気恥ずかしい言葉を使えば、ロマンスを感じる台詞。
「ロマンス……」
「へ?」
そうだ、思い付いた。
鍵盤に、そっと手を添える。
弾き始めると、友人は直ぐには分からない様子で居たが、少しもしたら、ハッと気付く。
「あ、白雪姫の……」
良かった、正解。
ジャズのスタンダードナンバー『いつか王子様が』
授業が始まるまで、お喋りしたりして待機をしている生徒たちの視線も集まり始めた。
──凄い、周りの反応も好感触。
気付いてもらえる、慣れない嬉しさを噛み締める。



