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心行くまでセッションを楽しんだ後、私は自室のテーブルの前に座っていた。

あれから、ずっと理ちゃんと私は弾き続けた。

数曲をして、曲が途切れたところで、理ちゃんが腕時計を覗いたとき、1時間が経とうとしていたらしい。

そのあと、理ちゃんに夕食を食べていくように促してみたけれど、理ちゃんは結局そのまま食べずに帰っていった。

私はと言うと、夕食はもちろんお風呂、宿題も終え、残る1つの「物」と向き合っている。



「開けるべき、なのかな」



私が迷う理由は、差出人が無いこと。

わざわざ、自分の正体を伏せてまで送ろうと思う、その心理は何だろう。

いくら考えても、答は出そうにない。

こうなったら、いつまでもウダウダ考えている場合ではない。

思い切って、封を切る。

恐る恐る中身を取り出せば、そこに入っていたのは、1枚の便箋だった。

たったこれだけか、と期待をしていたわけでもないのに、少しがっかりした。

とりあえず、内容を読めば、差出人が分かる要素があるのかもしれない。

そう思い開くと、1行目で衝撃が走る。

『アナタは詐欺に遭いました』

息を呑む。

一瞬、思考が止まる。

──え、でも、ちょっと待って。

詐欺なんて言われても、何か変なことをした覚えも、心当たりも無い。

自分を落ち着かせるように、呟くように内容を読んでみる。

そこに書かれていた内容は、こうだ。

『アナタはある条件に該当しています。僕と文通始めませんか?』

一番下には、「イチ」と相手の名前と、おそらくその相手の住所が書かれていた。

住所は県内だった。