「返事は、今すぐじゃなくても良いから」
雅人くんは気遣って、そう言ってくれるけれど、私は首を横に振った。
すると、雅人くんは、少し目を見開く。
私の中で答は既に出ていた。
手紙のあの文章から、目には見えないものも、私には読み取れていたし。
優しい、それだけのありきたりな言葉じゃなくて。
少なくとも、私が忘れてしまっていた思い出を、何一つ溢すことなく覚えてくれていた人。
実直な性分が、充分に伝わってきた。
だから、私は緊張で強張る体のままで一生懸命、笑顔を作る。
「雅人くんの彼女に、なってみたいです」
精一杯伝えると、雅人くんはこれでもか、という程に真っ赤になる。
私が尚も見つめ続けると、うつ向いてしまって、顔を隠しながら呟くように言った。
「実は再現には、まだ続きがあって──」
そう言うと、彼は私の肩を抱き寄せ、ぎこちなく頬にキスをした。
顔が離れて見つめ合っても、少しも嫌ではないのが、とにかく不思議で。
お互いに照れ臭いはずなのに、胸が温くなっていく。
握られた手が、安心する。
この温もりを離したくなくて、彼の手を握り返した。
そうすれば、彼は思いっ切り目を見開く。
「確かに、私のお気に入りは『いつか王子様が』だけど……。実は、タイトルをちょっとだけ小馬鹿にしてた。何をそんな夢を見て、って」
「え、そうなの?」
「うん。でも、今、考えが変わった」
私は体ごと、雅人くんの方を向いた。
「ちゃんと、私にも王子様が来てくれたから。白雪姫、バカにしてごめんね、って謝っときます」
私が頭を掻きながら笑うと、雅人くんは吹き出した。
彼につられて、私も笑う。
窓から差し込む光は、先ほどまでの清々しかった青空から、いつの間にやら夕焼けに変わっていた。
赤みを帯びる光は、泣きたくなる程に心地好い雰囲気を醸し出している。
いつか、泣きたくなるほど大好きなキミが、
おわり。



