いつか、泣きたくなるほど大好きなキミが




「雅人くん」

「はい」

「目が合ったあの日、もしかして私が弾いてるの、見てた……?」



恐る恐る私が聞いてみても、雅人くんは何も可笑しいことではないというように「うん」と答えた。



「懐かしいなぁ、と思って、ずっと聴いてた」

「懐かしい?」



私が尋ね返すと雅人くんは、話をしながらも未だに鍵盤に乗せていた私の手に、そっと触れる。

肩が跳ねる。

思わず私は、辺りを見渡した。

理ちゃんは母と、遠くの方で話し込んでいる。

ドラムのおじさんも、常連の佐藤さんと珈琲を啜って、談笑している。

誰も私たちに気付いていない。

目線を雅人くんに戻すと、ふっと笑って、直ぐに真剣な表情になった。

周りが見ていないことなんて、とっくに分かっていたようだ。



「よく『いつか王子様が』2人で連弾したよね。俺が引っ越す直前に、最後にこれを弾いて……俺が言ったこと、覚えてる?」



私が戸惑いながら、首をゆっくり横に振ると、雅人くんをまた苦笑いさせてしまう。

それが訳も分からず苦しくて、何とか笑ってもらいたいのに。

思い出せない自分が、恨めしい。

自分を責めて、眉間にシワが寄るほど不安になる。

そんな私を見て、雅人くんは困りながら、やっぱり無理に笑う。

そして、言った。



「じゃあ、もう一度、同じことを再現させてください。このままじゃ、本当に恋愛詐欺師みたいになっちゃうから」



その「詐欺師になってしまう」と言うのも、今日で2度目だ。

ふと思い出す。

一番はじめの、雅人くんと再会を果たすきっかけとなった始まりの手紙の1行目。

『アナタは詐欺に遭いました』

これで、あの意味も、全てすっきり出来るのだろうか。