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「ピアノも充分だったが、サックスもなかなか……音楽により磨きがかかったな」
「ありがとうございます」
4人でのセッションを終え、理ちゃんは雅人くんをべた褒めしている。
いつも私だけを褒める理ちゃんが、今は他を見ていることに少し妬けた。
私は気にしないようにして、また鍵盤に手を置く。
つい先ほどまでのセッションが、心地好く頭に残っていて、どうしても我慢が効かなくなる。
また指が鍵盤をなぞっていた。
自分にさえも聞こえるか、聞こえないかというくらいの、小さな音でささやかに。
すると、ふと手元が暗くなった。
気づけば、雅人くんが真後ろに立っていたようだ。
彼のお腹と私の背中が、くっついてしまいそうな距離。
心臓が一度どくんと跳ねて、体は強張り動かない。
「あ、あれ? 理ちゃんと話は終わったの?」
「うん」
照れ隠しに挙動不審になりながら問い掛ければ、呆気なく返されてしまう。
私が困っていると、私の真横にやって来て、私と同じく鍵盤に手を添える。
「お気に入りの曲、変わってないんだね」
「え」
「……この前も、音楽室で弾いてたから」
「え、何で知って──」
思わず、彼の顔を見上げた。
しっかりと目が合い、逸らせなくなった。
あの日、音楽室で友人にせがまれて「いつか王子様が」を弾いた後。
視線を感じた直後に入ってきた「無造作な暗めの茶髪の男子」
「ああ……!」
「良かった。そこも分かってくれて」
「で、でも、どうして……」
「目的があったから、一人暮らししてまで、こっちの高校に戻ってきた」
「目的?」
「澪ちゃんと、もう一度会うため。そうじゃないと、俺、澪ちゃんのこと、騙したことになるから。でも、同じ高校に入学出来てたのは、後から知った」
「高校、ずっと一緒だったって、音楽の授業でも、ずっと会ってたってこと……?」
「そう」
「雅人くんは、私のこと知ってたの……?」
「もちろん」
「嘘……」
「本当ですけど」
私だけが、知らなかった。
思わず、項垂れる。



