「モーニン」の原曲は、まるでソロのバトンを回していくようで、好奇心を掻き立てられる。
本来、トランペットとサックス、トロンボーン管楽器のソロ時間は、トータル5分程ある。
しかし、今はその代役を見事なまでに、彼の中低音のテナーが役割を果たしている。
彼の音を聴いたのは、さっきのライブと今の2回のみ。
約5分間で彼の音を、自身の耳に馴染ませた。
そして、彼の音が締め括ろうとしている気配を察知して、彼へ視線を向けると、彼の方も目配せしてくれていた。
そのお陰で、すんなりとソロに入ることが出来る。
──楽しいな。
純粋にそう思っては、口元がニヤけてくる。
そうして、1曲目を終え、2曲目は「テイク・ファイブ」で駆け抜けた。
皆がうっすら汗を滲ませて、頬を紅潮させている。
すると、理ちゃんも興奮冷めやらぬ様子のままで、何故か私に言う。
「澪ちゃん。次で最後にするか」
「え、うん」
「最後は、どうする。澪ちゃんが決めたら良い」
「え! 私が?」
「ああ」
雅人くんを見ると、私に向けて微笑んでいる。
「俺も、何でもいけるよ」
「じゃあ……」
私が提案したのは最近、学校で好感触を得られた一曲。
今日の演奏を締め括るには、相応しくない。
締め括るにはあまりに静かで、タイトルには夢があるけど、変ロ長調のどこか切なさを含んだメロディーは、私の胸をきゅっと締めるから。
それでも、聴いてみたかった。
彼の、音で。
「いつか王子様が」を。
彼は何度も頷いて「いいね」と言ってくれる。
それが、嬉しかった。
セッションが始まって、数秒後に入ってきた彼の旋律は、最高に私の心を震わせた。
分かった。
私がいつも下校中に聴く曲に、物足りなさを感じていた理由。
欠けていたのは、この音だ。
心を震わせる程の、旋律を奏でる楽器の音が。



