演奏スペースで2人が準備しているのを、母と並んで眺めていた。
「雅人くん、背も高くなって、イケメンになったわねぇ」
「ちょっと、お母さん」
「あら、何よ。澪も嬉しいんじゃないの?」
「私は……さっき、誰だか思い出せたところだから、よく分かんない」
「強がんなくったっていいのよ。澪、昔、雅人くんから言われたこと、覚えてないの?」
「え、何? 私、まだ思い出せてないことがあるの?」
「ああ、その様子じゃあ、全然ねぇ」
「ちょっと! みんなして何よ!」
母と話していると、理ちゃんがこちらに手招きしていた。
「澪ちゃん。何してるんだ。澪ちゃんもだよ」
「え、わ、私も?!」
「そりゃ、決まってるだろう。澪ちゃんのピアノもなけりゃ、面白くない」
そして、母に「ほらほら!」背中を押される。
雅人くんは、サックスを手に携えている。
正直、この天才少年の前で弾くなんて、気が引けた。
さらに、ドラムの近所のおじさんまで満面の笑みで、ソロさながらに音を鳴らして、私を急かす。
こうなったら、仕方が無い。
求められたら、それにちゃんと応えよう。
「そうしたら、手始めにモーニン」
「はい」
理ちゃんの号令に、雅人くんがスマートに返事をする。
中学にやっていたのは吹奏楽なら、ジャズをいきなりするなんて、きっと容易いことじゃない。
それを、いとも簡単に返事をして、楽器を構えられるのなら、きっと絶対音感でも持っているに違いない。
よくよく考えてみれば、確かに昔も私の真横で、即興で曲を弾いたりすることは珍しくなかった。
だから、彼はそういうことだ。
昔から、気付かぬうちにそうだったのだ。



