私も私で驚きを隠しきれず、理ちゃんとイチさんの間に割って入る。
しかし、理ちゃんは不思議そうに私を見るだけだ。
「澪ちゃん。まさか覚えていないのか? 」
「何を……?」
私には何が何だかさっぱりで、もう疑問符を飛ばすしかない。
すると、イチさんは親しげに理ちゃんに言う。
「そうなんです。7、8年振りかな……今日、久しぶりに会ったら『はじめまして』なんて言われたんで、俺ショックで……」
「可哀想に」
「これじゃ俺、本当に詐欺師みたいになっちゃいますよ」
「待って。本当に待って。2人の話が読めないんですけど……」
理ちゃんがやれやれと、溜め息を吐いた。
「柿市 雅人。小学生の頃、ここへ来て、よく2人でピアノ弾いてたじゃないか」
理ちゃんの言葉を頼りに、今までの記憶を全部呼び覚ます。
私が初めてピアノに触れた頃、私は理ちゃんに弾き方を教えてもらっていた。
その頃、私の隣に男の子が居た。
一緒に隣り合って、それぞれに違うパートを奏でて連弾していた記憶が、確かに蘇る。
「……もしかして、あの時の?」
「思い出してくれた?」
「う、う……うっすら」
「うっすらでも、嬉しいよ」
イチさん、もとい雅人くんは苦笑いを浮かべる。
本当に、途切れ途切れの薄れた記憶。
だけど、その中でも当時、幼いはずの彼のピアノは断然キレが凄くて毎度毎度、感動していた。
しかし、小学生3年生の時に、彼は突然『Sunflower』に来なくなった。
父親の転勤で関東へ引っ越した、と昔に母が言っていた。
我が家のオルガンピアノと私、1台の1人、寂しく涙ながらに音で語り合った、そんな記憶も今まで忘れてしまっていた。
記憶を巡らせて、おおよそ納得した私が顔を上げると、雅人くんと目が合う。
すると、彼は柔らかく微笑んだ。
「引っ越してからは、向こうで地域の楽団に入ったり、中学になっても土日・祝日と部活漬けだったから、なかなかこっちに遊びにも来れなくて」



