どうして、こんな展開になってしまったのだろう。
彼のあの一言で我が家という「喫茶店」へと向かっていた。
無言で歩いているのに、気まずいと思うこともなく、ただ黙々とただ歩いているだけ。
ふと彼の横顔を盗み見る。
長い睫毛に目がいく。
彼は今、何を思って歩いているのだろう。
「……俺の顔、何か付いてる?」
イチさんはこちらも向かず、はにかんでいる。
ぎょっとして、慌てて目を逸らす。
気付かれていたなんて。
恥ずかしくて、顔が熱くなる。
「いいえ! 何も!」
咄嗟に出た声も、大きくなった。
熱い顔のままで、また無言の中で歩き続けて、『Sunflower』の前までやって来た。
私は入口の扉の取っ手を掴んだが、背後にイチさんの気配を感じず、その場で振り返る。
すると、彼はその看板をじっと見つめて、周りを静かに見渡していた。
「……入らないんですか?」
私が声を掛けると、彼ははっとした様子でこちらへ駆け寄ってくる。
「ごめん。ずっと、ここへ来たいと思ってたから、浮かれちゃって」
「うちのお店、知ってくれてたんですか?」
「知ってるも何も──」
彼が言い掛けたところで、入口の扉が向こう側から開く感覚がした。
向こう側に居る人が、開けるのを止めたらしいので、私が開いてあげるとそこには理ちゃんが立っていた。
「おお、澪ちゃん」
「理ちゃん! 来るなら教えてよ」
「残念ながら、もう帰るところだ」
意地の悪い理ちゃんに、私は頬を膨らませる。
そんな私を見て、理ちゃんはふっと笑った。
そして、理ちゃんが私のやや斜め後ろに居た、イチさんに気が付く。
少しの沈黙の後、理ちゃんがゆっくりと尋ねた。
「まさと……?」
「はい。ご無沙汰してます、理おじさん」
「本当に、雅人か。いつの間に、こっちに戻って来てたんだ」
「2年前くらいからです。高校から、こっちに1人で戻ってきました」
「そうか。すっかり青年になったな」
理ちゃんの表面上は、至って落ち着いているように見えるが、眉毛が常に上がり下がりしており、心底驚いているのが伝わってくる。
いや、それよりも。そうじゃなくて──。
「ちょ、ちょっと待って! 2人とも知り合いなの?!」



