「はぁ、間に合った……」
肩で息をしているイチさんは、私と目が合うなり言った。
「なんで逃げるんですか」
私は動揺して「え」としか、発することが出来なかった。
だって今日、始めて手紙の世界から、外に出てきた2人なのに。
お互いの顔写真を、見せ合った訳でもない。
彼は、イチさんは、既に私の顔と名前を一致させている。
それに、私が「逃げる」と宣言してもいないのに、ピントを合わせた様に、その動詞を出してきたこと。
その上、不思議なのは既視感。
ステージで姿を見た時にも感じた。
私が相変わらず戸惑っている間に息を整えた彼は、にこっと笑う。
「今日は来てくれて、ありがとう。改めて、やり取りしていた『イチ』です」
「はじめまして。こちらこそ楽しかったです。ありがとうございます。それに、どうして手紙の相手が私ってわかったんですか……?」
私がそう返すと、イチさんは少し目を見開く。
「酷いなぁ」
「え、何か私、気に障るようなこと……」
「いや、それは違うんだけど……うん、そりゃ、まぁ、覚えてくれてる訳ないか」
「え、何が……」
訳の分かっていない私が尋ねても、首を横に振るばかりで、教えてくれようとしない。
「大丈夫。覚えてないなら、それでもいいから」
彼が微かに口角を上げ、寂しげな表情で言うものだから、私も気になって引き下がれない。
そう感じたら、思わず口にしていた。
「そう言わず……もし良かったら、どこかカフェにでも入って、話しませんか?」
すると、彼は驚いた表情で私を見つめた後、素早く頷いた。
「良いね!」
「じゃあ……近くで探しますね」
そう言って、スマホを取り出すと、彼が唐突に言う。
「たしか、ミオちゃ……ヒマワリさんのところも喫茶店だったよね」



