やっとの思いで外に出た私は、駅を目指して歩き始めた。
先ほどまでの、ほんの数時間を思い返す。
本当に楽しかった。
その余韻が、まだ残っている。
楽しかった、だけど。
何だか胸がぎゅっと締められる様に、遣り切れない気持ちになる。
泣きたくなったのは、 きっと、期待が外れたから。
今日会えたら、何かが変わるかもしれないなんて、よくよく思えば自分勝手な、安易な考えだ。
イチさんがどんな顔をした人かも知れて、新しい音楽のジャンルを開拓することが出来た、それだけで十分じゃないか。
楽しんだ景色を、複雑な感情と一緒に丸め込んで噛み締める。
会場が一体となって溶け合った、あの景色。
ふと思い返せば、たった今は1人ぼっちだということを強く思い知らされる。
そして、たくさんの人とすれ違っているのに、1人ぼっちのように錯覚する。
ああ、嫌だ、嫌だ。
こんな陰気な気分は、嫌だ。
気を紛れさせるために、イヤホンをウエストバックから取り出し、耳に押し込んだ。
ランダムで鳴り始めた1曲目を聴いてみても、モヤモヤしてしまう。
私は、イヤホンを耳から抜いた。
──今は余韻に浸っていたい、もっと。
誰にも気付かれないような、小さな溜め息を吐いて、空を見上げたときだった。
「ミオちゃん……!」
少し低めの男性の声が、私の名前を呼んだ。
こんな街中で、しかも隣町だから、知り合いと遭遇する確率もほとんど無いはずなのに。
そう思いながらも、振り返る。
そこに居たのは「イチさん」だった。



