いつか、泣きたくなるほど大好きなキミが




全ての出演者の演奏を終え、みんながフロアへ出ようとする。

人が割りと多く、私も出るのに苦労した。

そして、ようやくフロアの出入口に差し掛かると、一気に進む速度が遅くなった。

人混みの中で、少し背伸びをしてみると、その先には本日の出演者たちが見送りをしていたのだ。



「ひぇ……こんなこともしてくれるの……」



一人一人に感謝を伝えていたり、握手をしたり、親しい人と話し込んだりしていた。

周りを見渡して、イチさんを探してみる。

──せっかく誘ってもらったんだし、お礼くらいは言っとかないとダメかな。

遠くの方に彼を見つけた。

お客さんと笑顔で握手を交わしている。

その笑顔を見た瞬間、突然に気持ちが揺らいだ。

向こうは、どこまで私を知っているのだろう。

私なんて今日まで、相手の顔すらも知らなかった。

もし、彼も同じようなことだとしたら、期待して文通を始めてみたものの、いざ会ってみたら「思っていたのと違った」なんて思われたら、嫌だ。

目の前でがっかりされるなんて、嫌だ。

特殊な劣等感。

今日の感想なら、手紙を送ろう。

そして、私は周りに流されるように、外へと繋がる出入口へ自然と辿り着く。

その間にも彼の、イチさんの目の前を通過した。

私は体が強張ったけれど、彼は素敵な笑顔で、お客さんと握手をしていた。

大丈夫。

私もその観客のうちの1人。

きっと知られてなんて居ないから。

これで逃げる様に帰ったって、バレやしないのだから。

それを分かっている以上、こんな風に嫉妬の様な感情を抱く必要なんて何も無い。