最後の音を、優しく弾き終えると、友人の方から小さく拍手が聞こえてくる。
「素敵だった……」
「ありがとう。なんか照れるなぁ。まともな感想を言ってくれるの、初めてだ」
「そんなこと無いよ! いつも凄いと思ってますぅ。失礼しちゃうなぁ」
「ええ? 本当かなぁ」
友人と笑い合っていると、視線を感じた。
感じる方へ、入口の方へ顔を向けたが、そこには誰も居なかった。
不思議に思いつつも、友人に視線を戻す。
その直後、無造作な暗めの茶髪の男子が音楽室に入ってきた。
その男子と、しっかり目が合ってしまった。
しかし、一瞬で目を逸らされる。
それだけだった。
先ほどの視線は、きっと私の思い違いだ。
そして、その後には疎らに生徒が入ってくる。
ちなみに、うちの高校では選択授業と言って、3クラスの生徒がそれぞれ、音楽、書道、体育応用の3つの授業から好きなものを選ぶ。
そのため、約3分の2のほとんどが、知らない生徒だ。
だから、もし今、誰かに見られていたかもしれないということが、思い違いでなかったとしても、これだけピアノを占領していれば、嫌でも注目される。
そもそも気にすることでもなかったのかもしれない。
そんなことを考えている間に、授業は始まり、席につく。
先生の話を聞いていても、あの台詞は浮かぶ。
直接、言われた訳でもないのに、空想の声で再生されている。
また顔が熱くなる。
本当に嫌だ、でも。
──イチさんからの手紙、今日、届いてるかな。
そんな夢見る少女の様な台詞を、頭の中では溜め息混じりに呟けてしまう。
手紙の相手を、完全に信用した訳ではない。
それなのに、少女漫画の主人公を心の底から演じてしまうのは、この状況があまりにも非現実だから。
顔、声、姿も何もかも知らない相手と文通だなんて。
無性に、ワクワクしてしまうものでしょう?



