(いやぁぁ……っ!?)

 ちょっと、待ってぇっ!!
 そこに誰かいたの!?
 というか、いつからなの……っ!?

「あ、お久しぶりです、二の兄上」

 声を聞いただけで、芳哉も彬親もわかったのだろう。
 あ、と声を上げ、互いに顔を見合せた。

 そして、芳哉は声にもならない声で悲鳴を上げて震える彩希を見て、表情を和らげる。

 彩希の頭を撫で回し、御簾の向こうへと言葉を返していた。

 その隣で彩希を膝の上に乗っけている彬親は、「そんな姿も可愛い」と、そのまま硬直してしまった体を優しくあやしてくれている。

 たまに、ふと思い出したように、無防備な彩希の頬や額に、触れるだけの優しい口づけをくれる。

 柔らかくて、ほんのり温かい感触が嬉しくて。
 思わず口元に笑みを浮かべていた。

 本当に至れり尽くせり、優しく甘い言葉つきで愛されてる最中だけれど。

 でも、いや、本当に待って!
 今はもう、それどころじゃないんじゃないっ!?

「今日は来ないかと思っていたよ、二人共」

「いや、それは二の兄上も同じでしょうに。
むしろ、兄上こそ来ないかと思ってましたからね。
俺達以上に長い期間引きこもっているのは、どこのどなたですか?」

「………はい、ごもっともです」

 どこか呆れたように問い返す彬親に、御簾の向こうの人物は、少ししょんぼりとした声で答えた。