「んー、例えば、俺が『花火行きたいな。誰か一緒に行ってくれる女の子いないかな』って清香に言ったら、何て答えたか覚えてる?」

私は首を横に振る。

 確かに、そんなこともあった。私を誘ってくれれば、喜んで一緒に行くのにって思った記憶はある。

「清香は『先輩が誘えば、来てくれますよ。クラスにかわいい子いないんですか?』って言ったんだよ。俺は、何回そうやって玉砕したことか」

「それはっ!」

だって、「私と一緒に」なんて言えるわけがない。

「でも、今はこうして清香と一緒にいられるわけだし、結果的には良かったのかな」

先輩は握った手に、きゅっと力を込めた。


 母との会食は、こうして終始、和やかに進んだが、食事を終えると、食事代は先輩が出してしまった。

ダメ!
そんなことしたら、後で、私が払わなきゃいけないんでしょ?
今、お母さんに出してもらわないと。

そう思っても、お母さんの手前、あまり強く言うこともできない。私は諦めるしかなかった。



 駅で母を見送った私は、バッグから財布を取り出す。

「先輩、食事代、おいくらでしたか?」

私が尋ねると、先輩は呆れたようにため息を吐いた。

「そんなの、清香からもらうわけないじゃん。とりあえず、いろいろ話したいから、そこ入ろ?」

え⁉︎
お母さんいなくなっても、呼び方そのまま!?

先輩が目で指し示したのは、改札横のテナントに入っているカフェ。でも……

「あの、私、そんなに手持ちないんです。延長とかできなくて……」

今回は2時間しか頼んでない。その後は、1時間越えるごとに5000円の延長料金が掛かる。

「ぷっ
ほんと、どこまでも真面目というか、融通が効かないというか……」

そう呆れたように笑う先輩は、逆に自分の財布から一万円札を取り出した。

「ほら、返す。最初から、料金取るつもりなんてないよ。だから、おいで」

いや、それは……

「ダメです。これ以上ないくらいに、ちゃんと役割を果たしてくれましたから、きちんと料金を取っていただかないと」

と私が右手を上げて押し留めると、先輩はその手首を握ってくるりと手のひらを上向け、そこに一万円札を握らせてしまった。

「こういう時は、ありがとうって受け取ればいいの。ほら、さっさと行くぞ」

先輩は、そのまま私を引っ張って店へ向かう。私は、力なく、そのまま後に従った。