結斗さんのお母さんとの顔合わせ。終わってみれば、心はすごく充実していて穏やかだ。

初めは緊張していたけれど、結斗さんのお母さんの優しい雰囲気と温かな気遣いによって、楽しく過ごすことができた。

お母さんとふたりきりになったことで、返っていろいろと深い話をすることができ、打ち解けることができて、今度会うときはアネッロで食事をしようと約束して駅で別れた。

今は結斗さんの運転する車に乗り、結斗さんのマンションへと向かっている最中だ。

その車内は和やかな雰囲気で笑顔に溢れている。

「母さん、とても喜んでいたよ」

「私も楽しかったです」

「普段ひとりでいるから、余計に蜜葉に話を聞いてもらえて嬉しかったようだ」

「そうなんですか」

「母は父と別れてから一度も再婚しなかった。父もだけどね。お互い独り身を貫いている。それは、俺に気を遣っているのもあるのかもしれない。それと、はっきり聞いたことはないが、たぶんふたりは、まだお互いのことを気にかけているんじゃないかと思っている」

「え?」

「両親は互いを嫌いになって別れたわけではない。祖父との折り合いがつかなくてね。結局、父は仕事を選び、母は家を出た。互いに悩みに悩んでの決断だったのだろうと思うから、今は両親のことを恨んではいない」

結斗さんが“今は”と発言したのを聞いて、結斗さん自身もいろんな葛藤があったんだと推測できた。

「いつか両親が顔を合わせられる日が来ればいいと思っている」

「いつか実現するといいですね」

「ああ」

結斗さんが優しく微笑んでそう言った。