懐妊一夜~赤ちゃんを宿したら極上御曹司の盲愛が止まりません~

「ハンカチとあと例のあれね」

他のお客さんがいる手前、マスターがそう言って白い紙袋を手渡してきた。

「有難うございます。すごいい楽しみです」

「次に来た時でも感想を聞かせてよ」

「はい。近いうちに来ます。これ少しばかりですが、ご家族で食べて下さい」

「そんな気を遣わなくていいのに」

「いえいえ。ほんの気持ちなので」

マスターはなかなかケーキの箱を受け取ってくれないが、受け取って貰わなけば私の気が済まない。思いきり腕を伸ばしてマスターの手に無理やりケーキの箱を手渡そうとしたそのときだった。

カランカランカランーー

店のドアが開く音がして、自然とそちらへと意識が流れた。

「う、嘘でしょう……?」

思わず驚きすぎて、手に持つケーキの箱を落としそうになってしまった。

「芹澤さん、また会ったね」

ニコリと妖艶な笑みを浮かべながら、私のもとへと颯爽と現われたのはーー

「……副社長、こんばんは」

ネイビーのスーツをカッコ良く着こなした、私が今一番顔を合わせては困る人だった。