「じゃあ、もう少ししたら顔を出します」

『うん。分かった。待ってるね』

「はい。では、後ほど」

食いしん坊の私はその己の欲求には勝てなかった。

そして、ささっと家着からお出かけ用の服に着替えて、家を出る。今日はすでに夕食を食べてしまっているがゆえ、アネッロで飲食は厳しい。

さすがに試食品だけを貰いに手ぶらでお店に顔を出すことには気が引け、近くのケーキ屋さんに寄り、マスターが好きな抹茶のチーズケーキと紅茶シフォンを手土産に持っていくことにした。

そして最寄り駅から電車に乗って二十分。アネッロの店の外観が目に飛び込んできて、自然と笑顔になった。

カランカランカランー

「おじゃまします」

「おぉ、蜜葉ちゃん。来てくれてありがとう」

アネッロでマスターの優しい笑顔と再会して、気持ちがほっこりする。

お店は会社帰りの若者で賑わっていた。念のため、チラチラと店内を見渡して副社長の姿を探したが、どうやら今日は来ていないようだ。

副社長の姿が見えないことにほっとしつつ、店内に立ち込める料理のいい匂いに夕食を食べてきたはずなのに食欲をそそられ、今週中にまたオムナポリを食べに顔を出そうと心に誓った。