「あみだくじで決まってしまったことですが、私なんかと一緒なんて嫌でしたよね。ごめんなさい。陽芽の方が良かったですよね。」

桃野さんならまだ分かるが、何故、このタイミングで陽芽さんの名前が出てくるのだろう。

「どうしてそう思うの?」
「だって、佐倉くんは、陽芽のことが好きなんですよね?」
「ええっ!?ち、違うよ!」

驚き過ぎて、思わず大きな声が出てしまった。
僕が陽芽さんを好き?何故?陽芽さんと僕はまだほとんど話したことがない。それなのに、どこをどう見たら、陽芽さんのことが好きに見えるのだろう。

「えっ?違うのですか?」

僕は内心で小さく溜息をついた。

「違うよ。どうしてそうなるの。」
揶揄(からか)う目的以外で私に近づいてくる人は、陽芽目的の人が多いので。」
「そうなの?」
「はい。佐倉くんは前に私と話がしたいと言っていたので、てっきり陽芽目当てなのかと。」
「違うよ。」
「では、どうして私と話がしたいだなんて言ったのですか?」

そんなの、決まっている。

「湖川さん、前に僕のこと助けてくれたでしょ?」

僕がそう言うと、湖川さんはきょとんとした。

「え?…すみません、私、何かしましたっけ?」

残念だが、全く覚えていないようだ。
湖川さんにとってはただの日常であったかもしれないが、僕にとっては、きっと一生、鮮明(せんめい)な記憶にとして残り続けるくらい、劇的(げきてき)な出来事であった。

「入学して、間もない頃──」