皆が黙り込んで、陽芽を見つめている。ただのあみだくじであるはずなのに、あまりにもその場の空気は緊張に包まれていて、つられて私も緊張してきてしまう。

「買い物へ行く2名は…!」

きっとその場にいる全員が息を飲んだ。

「藍と桜ケーキくんで〜〜す!!」

陽芽が拍手をする。
心臓が高鳴った。さり気なく佐倉くんの方を見ると、その瞬間、目と目が合った。

「っしゃあああああ!!!!!俺じゃなかった〜!!」

本田くんが叫ぶ。

「よろしく。」

佐倉くんが微笑んだ。その笑顔が眩しくて、私は目を逸らす。

「よ、よろしくお願いします。」

どうしてこんなにも緊張しているのだろう。ただ買い物へ行くだけなのに。佐倉くんのことはとても信用している。だから、他の男性と比べたら、佐倉くんは怖くない。しかし、こんなにドキドキしているということは、もしかしたらまだ何処かで佐倉くんのことを怖いと感じてしまっているのかもしれない。

「駄目!」

突然お兄ちゃんちゃんが大きな声を発した。

「藍が行くなら、僕も行く!藍が変な人に声をかけられないか心配だ!」
「お兄ちゃん、コンビニは徒歩5分の距離だから大丈夫だよ。それに、1人で行くんじゃなくて、佐倉くんもいるし…。」
「蛍くんじゃ心配。代わりに僕が行くよ。」

いつの間にお兄ちゃんは、佐倉くんのことを『蛍くん』と呼んでいたのだろうと気になったが、今は関係の無いことだと思い、突っ込まなかった。

「裕くん、これはあみだくじで決まったことだから、変更は無しだよ。」

陽芽がきっぱりと言う。

「でも…。」
「さあさあ、裕くんがうるさくなる前に、藍と桜ケーキくんはとっととコンビニに行っちゃって!」

陽芽に背中を押され、誘導されるように玄関まで行った。

「あの、陽芽、お金は…?」
「後で皆から徴収(ちょうしゅう)しておくから大丈夫!」
「食べ物は何を買ってくればいい?」
「うーん、それは…、ねえ!皆!お昼うどんでいい!?」

陽芽が皆にそう聞くと、皆は頷いた。

「じゃあ、うどん7個ね。皆、何でも良いみたいだし、無かったら他のものでもいいよ。」
「そんな適当な──」
「はい、ごちゃごちゃ言ってないで、行ってらっしゃい!」

そして私達は、半強制的にお兄ちゃんの家を追い出された。