そして、HRが終わるや否や、桃野さんが僕の席までやってきたのだった。

「数学なら、僕が教えようか?」

僕は勉強が特別得意なわけではない。それと同時に、特別苦手なわけでもない。そんな僕が上手く教えることができるか分からない。
でも、高瀬AI研究所が、何故テストで30点以下を取ったパートナーに手伝いをさせるのか、その意図を考えれば、僕が桃野さんに勉強を教えるのが1番良いと思われる。
きっと、この定期試験も研究の一環だ。パートナーで勉強を教え合い、30点以下を回避することで、相性の良い相手と試練を乗り越えることができるのかを見ているのだと思う。

「いいの?教えてもらっても。」
「構わないよ。」
「でも、佐倉くんも勉強があるのに…あ!そうだ!!よかったら、勉強会しない?地域の図書館か、ファミレスで!」

意外だ。桃野さんの方から僕を誘ってくるなんて。しかも、覇気(はき)のある口調で。僕にはあまり興味が無いはずなのに。

「僕はいいけど…、桃野さんは、僕と2人きりでいいの?」
「あ、いや、2人きりというか…、なんというか…。」

急に桃野さんの言葉に覇気が無くなった。

「ん?」
「あの…、あ、藍ちゃんも一緒で…!」

僕は静かに納得した。
なるほど。湖川さんが絡んでいたから、僕を誘ったというわけか。
でも、それなら、湖川さんと2人きりで勉強をすればいい。僕がいる必要があるのだろうか。