「佐倉くんは、そんなことをする人ではないと、分かっていますから。」

社会的に抹殺されるところまで想像しかけていたため、あまりにも予想外の言葉に驚いた。

「ずっと、謝らないといけないと思っていたのです。」

湖川さんは、自分の膝に消毒をし、絆創膏を貼り付けながら、そう言った。

「謝る?」
「罰ゲームの時のこと。」

罰ゲーム。
1ヶ月程前の記憶だが、はっきりと覚えている。僕が湖川さんと初めて話した日だ。

「あの時、私は貴方に酷いことを言ってしまいました。私を助ける為に、わざとゲームに負けてくれたのにも関わらず、私は貴方に、何も話すことは無いと、そう言ってしまいました。」

確かにそう言われた。しかし、それほど気にしていたわけではない。僕にとっては、そんなことより、湖川さんと話せたという事実の方が重要で、とても嬉しかったのだから。

「その時は、佐倉くんが私を揶揄(からか)っているのだと思い込んでいました。でも、あれから何回か佐倉くんと話をしていて、それは間違いであると気づきました。」

とても嬉しい。でも…。
嬉しいはずなのに、心の奥底にいる自分が、『それ以上はやめてくれ。』と叫んでいる。

「人を信じるのは怖いけど、私は佐倉くんを信じてみようと思ったのです。」

湖川さんが微笑んだ。
初めて、彼女の笑顔を見た。
ああ、駄目だ。彼女は僕に微笑みかけてはいけない。そして、僕を『信じる』だなんて言ってはいけない。
だって、そんなことを言われたら、僕はもう、自分を止められなくなってしまうかもしれない。

「ありがとう。」

僕は、彼女から視線を逸らして、そう言った。
今、彼女を直視してしまったら、自分の中で、何かが動き出してしまうような気がした。
駄目だ。それだけは。早く、この話題を変えなければいけない。早く、何か──