僕達は、その後、お互いにほとんど無言のまま、山を登り続けた。
その間に、僕達は山の頂上へ到着した。

「頂上に着いたみたいだね。」

僕がそう言ったが、桃野さんはあまり興味が無さそうにしていた。

「そうだね。なんだか、意外と感動が無いなぁ。」
「それほど高い山じゃなかったからじゃないかな。」
「そうかもしれない。」

このままではまた無言になってしまいそうだ。僕から何か話題を提供した方が良いだろうか。そう考えていると、桃野さんの方から口を開いた。

「佐倉くん、これは凄く言い難いことなんだけど…。」

桃野さんが口ごもりながらそう言った。

「どうしたの?」
「佐倉くんは、今好きな人はいる?」
「へっ…!?」

今まで桃野さんとそのような話は一切したことがなかった為、突然の出来事に驚いてしまった。

「いや、いないけど。」
「そっか。それならいいけど。」
「パートナーがいるのに、他の人と恋愛をするなんて、無意味な事だよ。」
「無意味じゃないよ。」

どういうことだろう?桃野さんは何をいおうとしているのだろうか。

「生徒手帳にも書いてあったけど、この学校は基本的に、恋愛は自由だよ。パートナーがいても、月に一度の顔合わせだけ行えばOKで、お互いが了承していれば、他の誰と付き合っても構わない。でしょ?」
「それは、そうだけど…。」

確かに、生徒手帳にはそのようなことが書いてあった。
だから、ルール上は自由に恋愛をしても問題は無い。だが、これは精神的な問題がある。月に一度の顔合わせだけを行って、他ではパートナー以外の人と恋愛をするだなんて、なんだか浮気をしているみたいだ。お互いにあまり良い気分はしないだろう。