「どうして、こんな事に…!」

隣で桃野さんが嘆いている。

「まさか、スタートの位置がパートナー毎に決められているとはね。」

ついに遠足当日がやってきた。先程、スタートしたばかりだ。スタート場所は山の(ふもと)で、ゴールはスタートと同じ場所へ戻ってくることだ。
僕達は、約束通り、湖川さんと真島くんと一緒にスタートをする予定だった。
しかし、集合場所である山の麓へ着くと、そこでは複数の先生が待っていて、ランダムに数字の書かれているカードをパートナー1組につき1枚配られた。そのカードに書かれた順番で整列をし、1番のペアから順に山へ登るらしい。
そして、僕達が引いたカードは56番で、湖川さんと真島くんが引いたカードは32番であった。つまり、僕達と湖川さん達の間には23組のペアがいることになる。人数でいうと、46人だ。流石に46人も前に人がいたら、湖川さん達と合流するのは難しいかもしれない。

「どうする?急いで登って2人を追いかける?」

桃野さんは、僕と2人で登るよりも、湖川さんがいた方が良いだろうと思い、そう提案した。
しかし、桃野さんは首を横に振った。

「山登りは、多分結構大変だと思うから、あまり体力を消耗(しょうもう)したくないな。ゆっくり歩いていかない?」
「うん、そうだね。そうしよう。」

湖川さんを追いかけると言うと思っていたから、少し意外だった。彼女のことも、まだまだ分からないことが多い。
でも、考えてみたら当たり前だ。まだ桃野さんと出会って、1か月くらいしか経っていない。
おそらく彼女のことを知るには、湖川さんの話をする必要があるのだろう。
パートナーの前で他の女の子の話をするのは、あまり良いことではないかもしれないが、僕達には僕達の関係性があり、きっとその方法がお互いを知ることに一番適している。