「桃野さん。」

その日の昼休み、僕は今日室で桃野さんに声をかけることにした。

「あ、佐倉くん。」
「顔合わせのことで話がしたくて。」
「ああ、そういえばまだしてなかったね。あれって、教室で顔を合わせただけじゃ駄目なのかな?それなら毎月楽じゃない?」

やはり桃野さんは、僕に全く興味が無いらしい。だからこそ、顔合わせなどと面倒なことはさっさと終わらせたいということだろう。

「確かにそれなら楽だけど、それは顔合わせにカウントされないみたいだよ。」
「え?そうなの?」

何故、僕がそんなことを知っているのか。特に特別な理由は無い。生徒手帳に記載されていたからだ。
僕は生徒手帳を取り出して、顔合わせについて書かれているページを桃野さんに見せた。

「ほら、ここ。『顔合わせは原則として、何処かへ出かけることを条件とする。校内で会うことは、顔合わせとしては認めない。また、顔合わせを行った後は、日時と場所を記載した書類を担任に提出する。』って、そう書いてある。」
「そんなルールが…。面倒くさい…。」

確かに、面倒くさい。だが、僕達は実験の被験者だ。自らこの高校への入学を希望したのだから、きっとそれくらいは協力しなくてはならないのだと思う。

「うん。それで、今度の遠足を顔合わせ代わりにするのはどうかなと思ったんだけれど、桃野さんはどうかな?」

僕がそう言うと、桃野さんは目を光らせた。

「私もそれで大丈夫だよ。ふふふ。」

桃野さんが、突然顔をニヤッとさせた。
何だろう、この意味深な笑いは。