「山登りは、パートナーと一緒にスタートする。それから、登っている最中は誰と一緒に登っても構わないし、必ずしもパートナーと一緒に登らないといけないわけではない。ただし、ゴールは必ずパートナーとしなければならない。」

興味深い内容だ。最初と最後は一緒にいなくちゃいけないのに、その過程に強制力は全くない。つまり、その過程でそれぞれのパートナーがどのような動きをするのかが、おそらく研究の目的となっているのだろう。
だから、遊園地や科学館ではなく、山登りなのか。

「もし、パートナーと一生にゴールできなかったらどうするんスか?」

本田くんが先生に尋ねた。

「罰として、1600字程度の反省文を書かされる。」

なんだ、その中途半端な罰は。しかし、何らかの罰を設けないと、ルールを無視する人が出てくるかもしれない。それがごく僅かならよいが、多くの人がルールを無視したら、研究事態が成り立たなくなってしまう。
反省文を書く程度ならルールを破っても良いと思う人もいるだろうが、よっぽどの理由がない限り、そんな面倒なことをする人はいないだろう。

「げえ!反省文とかマジごめんだわ!1600字も書くことねえよ!」
「それなら、しっかりとルールを守ることだな。」
「はいはい、分かりましたよ。ルール守ればいいんでしょ、守れば。」

そのように言っている割には、嬉しそうな顔をしている。
きっと、パートナーが湖川さんの妹だからだろう。パートナーが決まった日から、本田くんは逐一(ちくいち)僕に彼女の話をしてきて、デレデレとしている。完全に惚気(惚気)というものだ。