悔しい。
言い返したいのに、何を言ったら良いのか分からない。どんな言葉を投げかけても、私の立場は不利になるような気がして…。
でも、ここで黙ってしまったら、この状況は何も変わらない。だから、私は続けた。

「そんなことを…。」
「あ?」
「そんなことを言う為に、私をここに呼び出したの…!?だったらもう帰って。」

影石愛は、ニタッと不敵な笑みを浮かべた。

「ちょっとちょっと、そんなに感情的にならないでよ。今のはあんたの質問に答えてあげただけでしょ。」

彼女は垂れてきた髪を耳にかける。

「最初にも言ったじゃん。私は、藍ちゃんに良いことを教えてあげるんだって。」
「良いこと…?」
「優しい仮面を被った、“裏切り者”についてね。」

裏切り者…?
彼女が何を言いたいのか、さっぱり分からない。裏切り者なんて、いるのしたら、目の前にいる彼女くらいだ。

「そんなにきょとんとした顔をするってことは、あんた、やっぱり何も知らないんだね。」
「いきなり“裏切り者”だなんて言われても、意味が分からない。」
「本当に分からないの?」

影石愛が私の目をじっと見る。

「あんなに近くにいるのにね。」

彼女はその場でぐるりと1周、小さな円を描くように歩く回ると、小さな溜息のようなものをついた。