「藍とももちゃんが強すぎなんだよ!」
「裕くん、負けを人の所為にしては駄目ですよー。」
「だってー。うぅ…。もう1回!!」

さっきから、これの繰り返しだ。
お兄ちゃんは、昔からゲーム好きだが、とても弱い。

「もう1回は良いけど、これ、いつまで続けるの?もう結構日が暮れたよ?」
「え!?いつの間に!?…本当だ。じゃあ、あと1回!あと1回だけ!」

窓の外を見たあと、お兄ちゃんはそう言い、勝手に、プレイボタンを押した。
ゲームが始まる。
このゲームは、画面の中のキャラクターがレーシングカートに乗っており、それをプレイヤーがコントローラーで操縦して、速さを競うゲームだ。
画面上にスタートという文字が現れると、私達は一斉にスタートした…。が…、お兄ちゃんは、勝ちたい気持ちが入り過ぎていたのか、スタートに失敗したようで、レーシングカートがくるくると回ってしまっている。

「もう!何でいつもスタートで失敗するんだ!!」
「ボタン、長押しし過ぎなんだよー。」

隣でももちゃんがケタケタと笑う。

「まだまだ勝負はここからだ!」

お兄ちゃんのオーラが急激に濃くなった。相当気合いを入れているに違いない。
オーラを見なくても分かる。まるで自分が画面の中に入ってしまったかのように、身体が上下左右に激しく動いている。

しかし、その気合いも努力もゲームには全く届かず…、暫くすると、ももちゃんが1位、私が2位でゴールをした。

「いえ〜い!また1位だ〜!」
「くっそぉ!!」

お兄ちゃんが、最後まで完走し終わると、自分の膝を叩いて悔しがった。

「お兄ちゃん、残念だったね。」
「うぅ…。家で猛特訓して、出直してくるから。」
「猛特訓までしなくても…。」
「次こそはももちゃんに勝つ!!」

そう言うとお兄ちゃんは、ゲーム機をテキパキと片付け始めた。