「下で、桃野が待ってるぞ。」
「ももちゃんが…?」
「ああ。君のことを一日中、ずっと心配していたみたいだ。一緒に帰ったら良いと思う。」
「そうだったんだすね。教えてくださり、ありがとうございます。」
「あと、もう一つ。」

彼が、ズボンの右ポケットに入っていたスマートフォンを取り出した。

「念の為、裕さんにも連絡しておいた。」
「えっ、お兄ちゃんにですか…!?」

驚いた。
真島くんとお兄ちゃんが繋がっていたことにも驚きだが、更に、真島くんがお兄ちゃんに何か頼み事をするなんて、想像ができない。

「こういう時は、事件に関わっていない人に話を聞いてもらうと良い。それに…、落ち込んだ君を励ますのは、裕さんの役目なんだろ?」

彼はそう言うと、もう一度私にせを向けた。
確かに、私が悲しんでいる時、いつも慰めてくれるのはお兄ちゃんだ。
お兄ちゃんは私に甘くて、私の欲しい言葉を欲しい時に与えてくれる。そんなお兄ちゃんに甘えてばかりはいられないが、今日だけは、許してもらおう。

「真島くん、ありがとうございます。」

階段を降りていく彼に、私は言った。

「別に。礼を言われる程のことではないから。」

いつものようなトーンでそう返される。
でもそれが、彼なりの思いやりなのだろう。私に、今日のことを気にさせない為に、いつもと同じように振舞っているのだと、なんとなく分かった。
彼が完全に見えなくなってから、私は、その階段を降り、ももちゃんとお兄ちゃんの元へと急いだ。